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人災派遣会社シリーズ   製作者:紫電改


小説 『人災派遣のフレイムアップ』 
第4話 『不実在オークショナー』


 

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◆◇◆ ※ ◇◆◇

 
 
15:26:25 *****16ポンド さんが入室しました********
15:27:08 Sir Oct >きたきた
15:27:10 BadJoker@幹事 >全員そろったかな
15:27:30 16ポンド >遅くなったっス
15:27:42 Sir Oct >どーも
15:27:45 Mitsu-ME >遅いよあんた
15:28:41 16ポンド >仕事帰り。俺はお前のようなヒマ人とは違うっスよ
15:29:13 Sir Oct >現場人間の辛いところだな
15:30:01 Mitsu-ME >小者は蟻のように働いていればいいさ
15:30:32 16ポンド >何か言ったッスかー不良在庫
15:30:57 Mitsu-ME >何だとー
15:32:08 BadJoker@幹事 >やめれー。のんびり同窓会をやってる時間はないんだって。時差もあるしな
15:33:16 Sir Oct >私はあと一時間で仕事だよ
15:34:02 16ポンド >金の亡者(笑
15:34:43 Sir Oct >なんとでも言ってくれ(泣
15:36:52 BadJoker@幹事 >ということで用件のみ。14番が起きたよ
15:40:05 Sir Oct >おおー
15:42:29 Mitsu-ME >やっと起きたか
15:45:10 16ポンド >では、さっそく試してみないとっスね
15:46:32 Mitsu-ME >ネタはあるのか?
15:47:10 Sir Oct >お前もたまには自分で考えろ
15:47:15 BadJoker@幹事 >仕込んでおいたネタがあるんで展開します。メール見てね
15:47:50 Sir Oct >了解
15:52:14 16ポンド >受信完了、て、アジアってことはまた俺の仕切りっスか
15:54:27 Sir Oct >ガンバレ仕事人ー。支払いのツケはもってやるから安心しろ
15:55:18 Mitsu-ME >管理人が出張ってくるだろ
15:57:00 16ポンド >また清掃係の人に邪魔されるとかなわんっスねえ
15:59:41 BadJoker@幹事 >スタッフつけるよ。Sひとり
16:02:03 16ポンド >Sってもピンキリっスからねえ。使えるの寄越してくださいよ
16:03:39 BadJoker@幹事 >間に合いそうならもう一人つけるよ。試運転だから、使い捨てでもいいでしょ。実際14番は現地入りさせないわけだし
16:03:40 Sir Oct >ようやくゴールが見えて来たところか
16:05:11 16ポンド >いや、全員揃ってからゲーム開始っスから
16:07:35 BadJoker@幹事 >先着の人は好きにやってていいけどね
16:10:43 Mitsu-ME >レポートは何時出せるんだ?
16:13:20 16ポンド >二ヵ月後ってとこっスかねぇ
16:17:19 BadJoker@幹事 >んじゃ、そのあたりでまたここで集まりましょ。またメール投げるから
16:20:22 Sir Oct >うへぇ出勤時間だ
16:21:53 16ポンド >また株情報寄越してよー
16:23:30 Sir Oct >それはインサイダー(笑
16:26:25 Mitsu-ME >どっちも金に困ってないだろアンタら
16:26:27 Sir Oct >じゃあ落ちます。いってきまーす
16:26:28 *****Sir Oct さんが退室しました********
16:27:18 16ポンド >いってらっしゃい。じゃあ俺も落ちます。ネムイー
16:27:23 *****16ポンド さんが退室しました********
16:30:33 BadJoker@幹事 >うーす。じゃあお開き〜
16:31:00 *****BadJoker@幹事 さんが退室しました********
16:37:43 Mitsu-ME >……俺にも早く出番がほしい
21:43:10 Mitsu-ME >……ひとりあそび
21:49:15 Mitsu-ME >ダレモイナイ
16:52:23 Mitsu-ME >……つまんないから戻す
16:52:59 *****Mitsu-ME さんが退室しました********
 
 
 
 
 
 
 
 

◆◇◆ 1 ◇◆◇

 
 
「アンタがもう少し早く気づけば、こんな事にはならなかったんだよ!」
「……あのねえ。崩れかけた足場を真っ向から無視して震脚を踏み込みまくったのはおまえだろうがよ」
  湿った文句に湿った反論を返し、おれは黙々と歩を進めた。新宿から高田馬場方面へと向かう明治通りの途上である。金は無いが食い物にはうるさい学生が集うこの通りには、安くて美味い飲食店がひしめきあっており、普段なら歩いているだけでそれなりに楽しめる場所だ。だが今、衣服の裾からアスファルトへぱらぱらと茶色い粉を撒き散らしながら、肩を落として進むおれ達二人組にはそんな感性は残されていなかった。全身は泥まみれの状態のまま乾燥してしまい、さながら自分の田んぼから間違って這い出てしまった瀕死の泥田坊と言ったところか。
  二人の泥田坊を容赦なく炙る陽射し。午後に入っても気温は下がらなかった。夏の間猛威を振るいに振るいまくった太陽は、九月に入っても一向に衰える気配を見せず、まだまだ都内は不快指数過剰の牢獄である。すれ違う人々の視線がとってもイタイ。いっそ本当に泥田坊よろしく腕を差し出して、田を返せえぇぇえ、とでも叫んだ方が気が楽になるかも知れない。
「あげくの果てに地下鉄では駅員さんに乗車拒否されるし。知り合いが乗ってたらどうするんだよ、ボク、毎日通学にも使ってるのに」
  我がアシスタント、七瀬真凛がぎゃあぎゃあと抗議の声を上げ、泥に汚れたシャツと、全身から噴き出す汗がもたらす不快感に拍車をかけた。そろそろ政府は残暑だの立春だのという言葉の定義を変えたほうが良いのではないか。一歩踏みしめるたびに足元から這い上がってくる、靴中の泥の生ぬるい感覚と相まって、不覚ながらこのおれ亘理陽司も、いささか苛立っていた模様。
「はん。そんなら運転手に送り迎えしてもらえばいいだろうが。旧士族のオジョウサマはおれ達ショミンとは同じ土を踏みませぬわオホホ、みたいな感じでさ。もっともその様じゃー誰がどう見てもタニシ摂りの子供だけどな」
「ふんだ、ボクが居なければアンタは今そんな事も言ってられなかったくせに」
「はっ、もともとおれがあそこまで追い込まれたのも元はと言えばお前が――」
  先ほどからこんな益体もない会話を延々と繰り返している。もう何巡目か考える気力も無い。
 
 
  事の発端は今日、九月下旬の土曜の朝に遡る。中学や高校ではすでに二学期が始まって久しいが、おれの大学ではまだギリギリ夏休み。この休み中に引き受けてきたフレイムアップの仕事も、先日長野から都内までを一夜で駆け抜けたことでどうにか一段落がついた。おれは他の連中のアシストに入ったりしながら比較的穏やかな(あくまでも比較的、だ)日々を送っていたものだ。そんな中に舞い込んで来たのが、東京都西部の某町に頻繁に出没して店先や田んぼを荒すという猿の駆除依頼だったのである。
  突拍子もないと思われるかも知れないが、こういった動物関係の依頼はおれ達にとってオーソドックスの部類に入る。浜辺に打ち上げられたイルカを助けたり、高度に統率された野犬の群れと死闘を演じたり。二十一世紀であろうと、都会を一歩離れれば、今なお動物や自然達と真っ向から向き合い戦い、あるいは共生している人がいる。これは別におれ達エージェント業界に限ったことではない。
  あるものは自然のバランスの変動の影響(それを自然破壊と呼んでいいのかはおれにはわからない)で住処を追われ、あるものは無責任な人間の餌付けに味を占め、猿やカラスが人里に降りてくる。彼らのもたらす被害は全国で年々深刻化している。今回の依頼は町を荒らす猿を捕らえ、これ以上被害が広がらないよう処置を施すというものだった。
  威嚇も罠も通じず、動物保護の観点から射殺も出来ない猿達。ほとほと困っていた町の人々と、彼等に協力する猟友会の皆さんと、東京にいながら連携を取り、どうにか猿の群れを追いたて一箇所に集めたのが昨日の夕方。そんで、仕上を施すべく朝一番で新宿から中央線に乗ろうとしたおれに、学校が休みだからとついてきたのがこいつ、七瀬真凛だった。そこまではまあ、いつもの事なのだが。
 
  結果は――散々なものだった。
 
  おれの能力で猿達を檻の中に誘い入れ、今回チームを組んだ獣医出身のエージェントに、人里に二度と近づかないように処置を施してもらう。万事うまく行っていたはずの作戦は、おれと真凛のささいな連絡の行き違いから破綻した。檻から脱出し街中を逃げ散る猿を、おれ達や猟師さん、最後には町民総出で追い掛け回すハメになったのである。そして、乱戦状態になった猿を捕まえようと真凛がその馬鹿力を解放した結果、足元のあぜ道が崩壊し、おれ達は二人揃って、まだなお水の残る晩生が植えられた田んぼに転落するハメに陥ったのだった。
「帰りの中央線の視線も痛かったな……」
  どうにか仕事そのものは成功させたものの、着替えも持ってきておらず、おれ達は中央線最後尾に新聞紙を敷いて、泥だらけの身体でひたすら無言で立ち尽くしていた。心の中では『おれはオブジェです、おれは置物です、気にしないでください』と必死に訴えていたものである。おれ達の哀れっぷりに同情してくれたのか、乗客が多くなかった事も幸いしたのか。車掌さんに放り出される事も無く何とか新宿までは戻ってこれた。だが、結局都内で乗車拒否され、こうして明治通りをとぼとぼと歩き、徒歩で高田馬場の事務所まで戻っているという次第。三十分以上歩き続けているが、電車内で無言だった分、互いの罵詈雑言は尽きる事は無かった。
 
 
  明治通りを右に折れしばらく歩くと、飲食店の並びはより賑やかになってくる。賑やかであればあるほどおれ達は一層身を縮め、こそこそと道の端っこを歩いた。
  そしてようやく古書店『現世』の看板が眼に入る。ここから裏手に周り、スチール製の階段を昇りきれば、二階のテナントとして入居している『人材派遣会社フレイムアップ』の扉の前に辿り着くのだ。どうにかゴールしたものの、こんな格好では中にも入れない。おれはインターホンを荒っぽく押して、泥まみれの体をベランダの手すりに預けて舌打ちした。
「……だいたいなあ、お前、なんで言われもしないのについてきたんだよ」
  ずるずるとおれの前に立っていた泥田坊の子供がこちらを振り返った。
「別にアンタについてきたわけじゃない。昨日の夜に浅葱さんから電話で頼まれたんだよ。アンタ一人じゃ頼りないから護衛してくれって」
  おれは鼻でせせら笑った。
「護衛!護衛ね。その割には率先して猿の群れに突っ込んでったけどな」
  真凛の眉が跳ね上がる。
「……ちょっと。そもそも攻撃の指示を出したのはアンタでしょ?」
「おれは足止めしてくれと言っただけなんだがな。まったくお前と来たら猪突猛進しかないっつーかケンカ馬鹿っつーか。ホント何でお前みたいにガサツな男女がおれのアシスタントなんだろね」
  すると真凛は泥まみれの格好のまま腕を組み、こちらを見据えた。先ほどまでのような怒りはなりを潜め、逆にいやに冷淡な視線を向けている。
「本当、なんでボクがアンタのアシスタントなんだろう。直樹さんとか仁さんとか、須江貞さんとか、みんなきちんとした人なのに。毎回毎回ボクの仕事ってひ弱なアンタの護衛ばっかり。これじゃどっちがアシスタントかわからないよ」
  いつもならコイツのこの手のコメントには冗談めかして侘びを入れるおれだが、どうしてかこの時は口が勝手に動いていた。堂々巡りの愚痴は、いつのまにかあらぬ方向へと逸脱しはじめていたようだ。
「そりゃお前の取柄なんて戦闘力だけだからな。護衛と攻撃以外に使い道が無い。だいたいそう思うなら外れりゃいいだろ。こっちだってもともとおれ一人の方が身軽なんだ。やる気の無いアシストなら要らねえよ」
「ボクだってそうしたいよ。でも残念でした、他の人はアンタと違って一人で自分の身も守れるんだって!」
「……ンだと!?」
「何だよ!?」
  腰に両手を当ててキバを剥く真凛に応戦して、おれも泥まみれの袖をまくりあげる。事務所の扉の前で、三軒先まで聞こえるほどに響き渡っていた見苦しい口喧嘩は、ついに見苦しい物理戦闘へと――
 
「お帰りなさい。ご苦労様でした、陽司さん、真凛さん」
 
  ――突入する寸前に、開いた事務所の扉によって遮られていた。出鼻をくじかれ、扉の反対側の真凛も気勢を削がれ立ち尽くしている。まるで計ったようなタイミングで扉を開いた人物――艶のある黒髪と知性の匂いを漂わす眼鏡が印象的なその女性に、おれは些か恥じ入って答えた。
「は、どうも。只今戻りました、来音さん」
 
 
 
 

◆◇◆ 2 ◇◆◇

 
 
 事務所内に備え付けられたシャワー室に飛び込み、熱いお湯で頭の天辺から全身を洗い流す。事務所に買い置きしてある予備の下着と無地のTシャツ(三組で千円の奴)に換え、ロッカーに吊るしてあったカーゴパンツ(ファッションアイテムではなく純然たる米軍流出品)を履いて、ようやくおれは人心地を取り戻す事が出来た。バスタオルを右肩にかけ、サンダルをつっかけてごく小さな脱衣所を出る。と、
「……」
「何だよ」
「そっちこそ何だよ」
  なんのかんのと着替えを用意するのに手間取り、おれより後の順番になった真凛が立っていた。さっぱり洗い流したはずの不快感がまたぶり返す。
「……フン!」
  二人同時にそっぽを向き、真凛は脱衣所へと入っていった。おれは振り返り様に、親指を立てて下に向けてやったが、扉を閉めたあいつの目には入らなかったようだ。くそっ。
 
  と、そんな荒んだおれの心に染み渡るような馥郁たるコーヒーの香りが漂ってきた。見れば、事務所内に割り当てられたおれ用の事務机の上にコーヒーカップが一つ置かれている。喉の奥がぐびりと鳴った。そういえば泥まみれの不快感ばかり気になっていたが、昼飯を食べて以降何も飲み食いしていない。おれはとるものもとりあえず卓上のコーヒーを流し込んだ。ホットコーヒーだが適度に冷めており、シャワーで火照った身体にはこのくらいがちょうど良かったらしい。一気にカップを空にして、そこで初めて己の無作法に気づいた。カップを片手に、傍らの、このコーヒーを淹れてくれた女性に照れ隠しのコメントを述べる。
「うぅーん、やっぱり来音さんの珈琲を頂くと心がなごむなぁ。香ばしい味わいと深いコクがささくれだった精神を癒してくれるというか。この仕事をやってて唯一幸せな気分になれますよ」
  ……まあ、実の所インスタントではあるのだが。ついでに言うとビールならエクセレントだった。
「まぁ、お上手ですねー、陽司さん」
  そういって昼下がりの秋の木漏れ日のような値千金の微笑をおれに注いでくれる女性は、笠桐かさきりリッチモンド来音らいねさん。腐れ縁のおれの悪友、笠桐・R・直樹なおきの姉上ではあるが、おれに言わせれば月とスッポン。レアメタルと産業廃棄物。東証一部上場優良企業と粉飾決算発覚株価大暴落企業。到底同じ血を引いているとは思えない素敵な女性なのである。
 
 
  ぬけるような……としか乏しいおれの言語力では表現できないが……肌。なんでも母方に東欧の貴族の血を引いているとかで、東洋人のそれではないなんとも艶っぽい白さ。そして髪は陽に透かしたときだけわずかに紅く見える黒。たっぷりとしたボリュームのある黒髪が、艶を波打たせながら背中まで美しいラインを描いている。日本人ばなれしているのはそれだけではなく、すらりと伸びた長い脚と、俺だって名前くらいは知っている高級ブランドのスーツをまったくさりげなく着こなしている、細いながらもメリハリの効いたプロポーション。ファッション誌のモデルだって簡単につとまりそうだ。
  そして容貌の方はと言えば、これがまたそこらの女優が裸足で逃げ出したくなるレベル。今日は事務仕事に没頭していたのだろうか、ベタな黒ぶち眼鏡をかけている。その奥で瞬く、夜の海のように深く吸い込まれそうなダークブルーの瞳。オックスフォードの法学に特化したカレッジを卒業した実績を持つ知性と、貴族としての気品を明確に湛えた桜色の唇。才色兼備とはまさにこのことである。
  修めた法学の知識と実務の腕を買われ、ウチの浅葱所長に法務担当として雇用された。現在ではこのフレイムアップの経営に関する法律手続き一式をほとんど一人で遂行している。おれ達アルバイトや、実働部隊の隊長である鶫野つぐみのひとしサンのように現場で実務に携わる事は殆ど無いが、おれ達の現場からの要請があれば、すぐに必要な法律や社会の情勢、企業データなど様々な情報を調べ上げてくれる。バックアップスタッフとして理系担当の羽美さんと対を為す、文系の要である。
  そしてもう一つ特筆すべき長所は、殊にアクの強いウチのメンバーの中で、数少ない真っ当な性格の持ち主というところだろう。彼女と、おれと、そしてもう一人、経理担当の桜庭さんという老紳士。この三人が、業界内で蛇蝎の如く忌まれる、あるいは悪魔の如く恐れられるトンデモ会社、『人災派遣のフレイムアップ』の常識の砦なのだ。
 
 
「とんでもない目にあったもんですよ」
  おれが一息で飲み干してしまったコーヒーカップに、すぐに来音さんがお代わりを注いでくれたため、今度はじっくりと味わうことが出来た。どうやら他のメンバーは例によって出払っているらしい。
「所長は?」
「下の『ケテル』で商談中ですね」
  この事務所が入っているのは、古書店『現世』のビルの二階である。一階には『現世』と、もう一つ、『ケテル』という喫茶店が入っている。小さな店だが、渋めの調度類が落ち着いた雰囲気を醸し出してくれるので、所長が気合を入れて商談する場合はよくここを使うのである。となると、事務所の中に居るのはおれと来音さん。そしてまだシャワーを使っている真凛だけのようだった。おれはそちらに視線を向けると一つ舌打ちをした。
「随分災難だったみたいですね」
「ええ、あのバカのおかげで。……っと、これ、レシートです」
  仕事中に背負っていなかったため泥まみれをまぬがれた愛用のザックから、一枚の紙を取り出して渡す。おれ達に与えられる仕事の概要は、通常『オーダーシート』と呼ばれる紙に一枚にまとめられて送られてくる。そして、今回のように依頼者とともに現場に赴く場合は、この『レシート』と呼ばれる複写式の紙を持って行く。仕事を達成した後、依頼人からここにサインを貰うことで、初めて仕事終了となるのだ。そしておれ達は、このレシートを事務所に納める事と引き換えに報酬を貰うのである。それを受け取った来音さんが、口元を押さえて必死に笑いをこらえている事に気がついた。
「な、何っすか?」
「いえ、陽司さんのさっきの台詞、シャワー待ちしている時の真凛さんの台詞と一言一句同じでしたから」
「やめてくださいよ、あんな単細胞と一緒にするのは」
  おれは吐き捨てるように言った。来音さんはおれのそんな顔を三拍ほど見つめた後、彼女自身の席――おれの隣――に腰掛けた。
「そうですね、じゃあ所長も商談中ですし、私が任務報告を承りましょうか」
  極上のスマイルであった。
 
 
 
  おれの任務報告の骨子を手早くレポート用紙に書き写し、お疲れ様、と来音さんは一言述べた。おれは恐縮しつつ、心の中でガッツポーズ。来音さんに報告すれば、それは自動的にメンドクサイ任務報告書を作成してくれる事を意味するので、おれ達現場スタッフとしては二倍三倍にオイシイのだ。
「でも正直言いますと、真凛さんへの対応は賛同しがたいものがありますわ」
「うぐ」
  これはおれには堪えた。滅多に文句を言わない来音さんだからこそ、こういう指摘はズンと来るのだ。感情ではなく冷静な分析に基づいたものであり、つまりはだいたいにおいて正しい。
「い、いや確かに指示に曖昧な点があったところは認めますがね。それを突撃命令と解釈するあいつの思考回路の方に問題があるっつーかなんつーか」
「仕事上の指示の行き違いについては、よくあるトラブルですから特に問題ではありませんよ。問題は、その後の喧嘩ですね〜」
「う……。そっちですか」
  仕事上では常にきびきびしている来音さんだが、プライベートではちょっとのんびりした話し方をする。つまりは、これはプライベートな話。仕事上では問題はないが、おれ個人の真凛への対応がよろしくない、と指摘されているわけだ。
「ケンカはともかくー、男女云々の発言は大変よろしくありませんねぇ。女の子はそういう言葉にとっても傷つきやすいんですよ」
「オンナノコぉ?あれのどこが?」
  オンナノコというよりはオノナタノコって感じですが。
「どこからどう見ても可愛い女の子じゃないですかあ」
「どっからどー見てもゴツイ男の子じゃないですか」
  まったく、お嬢様高校のブレザーなんぞより詰襟の学ランでも着せた方が万倍似合うというものである。
「仕事上の点は、陽司さんも譲れないものがあるでしょうからともかく。その一点についてはきちんと謝っておいた方が良いですよお」
「ええー!?なんでおれが、」
「陽司さん」
  来音さんはおれの方に身を乗り出して一言。
「良いですねー?」
  あ。表情は笑顔だけど目が笑ってない。
「わかりました、わかりましたよ」
  おれは降参のポーズで手を振った。どのみち来音さんにお願いされて断れる霊長類ヒト科のオスなどまず居ないのだ。
  ……はー。
  しゃーねえ。ここは年長者として、分別のあるところをガキんちょに見せてやるとするか。とおれが決意した途端、間髪要れず事務所のドアが開いた。
「やっほー、亘理君帰ってたんだ、おっかれー」
  所長が帰ってきた。っていうか折角あるんだからチャイムくらい鳴らそうぜ。上機嫌なその声から推察するに、
「新規の依頼ですね、嵯峨野所長」
  敏腕秘書モードに戻った来音さんがふわりと席を立つ。そこまで言われてようやくおれは、所長の後ろにもう一人、スーツ姿の男性が佇んでいる事に気づいた。何やら巨大なボストンバッグを背負っている。所長はその男性をパーテーションで区切られた応接室に通すと、来音さんを手招きする。
「来音ちゃんもお疲れ。で、スエさんと仁君のチームは今どうしてる?」
  問われた来音さんの顔が曇った。
「仕事自体は順調に進捗しています。ですが、ヤヅミが抱え込んでいた利権に集まってくる勢力は想像以上に多数だった模様です。彼等を排除しつつ、依頼者の債権を回収するにはあと一週間欲しいと須江貞チーフからの連絡です」
  ヤヅミ、とは日本の大手都銀の一角であるヤヅミ銀行の事である。先日、とある事件の影響により社内の致命的な不祥事が暴露され、一気に社会的信用を失った。ヤヅミと提携している取引先は軒並み浮き足だち、早くも水面下では船から逃げ出すネズミや、おこぼれに預かろうとするハイエナ達の暗闘が始まっているのだ。
「そかー……。調査任務だしあの二人が最適だと思ってたんだけど。んん」
  言うや、所長の視線がおれに向く。あー、これひょっとしていつものパターン?
「亘理君、唐突だけど一件、」
「おれはイヤですよ」
  ここで即答出来るあたり、おれもここに来てから随分鍛えられたよなあとか思う。しかし我らが浅葱所長はそんなおれを見据えて一言。
「今月のアパート代、未払いだったよね?」
「な、何の事やら」
「あれー違った?亘理君の生活パターンからすれば、今回の猿退治の報酬でようやく今月の食費が確保。次でようやく固定費に充当出来るってあたりじゃない?」
  違った?等と言いながら自身の分析を微塵も疑っていやがらない。ええ、まさしくその通りですよ。だが、今日だって散々な目に会ったのだ。しばらくは休みを、
「同日複数の依頼にはボーナスがつくわよ」
「…………仕方ありませんね」
  ”…………”の間に、おれなりの葛藤があった事にしておいて頂きたい。
「じゃ、さっそく応接室に来て頂戴。依頼人がお待ちよ」
「うーっす、了解」
  応接室に消えていった所長を見送ったあと、おれは何か着替えがないかと探した。だが、しょせん夏場にロクな服が残っているはずもない。結局おれは、Tシャツとカーゴパンツのまま応接室に向かう事にした。と、
「…………」
「……おう」
  脱衣所から出てきた真凛と出くわした。出会い頭で一度面食らった表情になったものの、すぐにそのツラはシャワーを浴びる前同様、不機嫌極まりないものになる。と、後ろの来音さんから何か異様なプレッシャーが発せられている。
「あのさあ、」
「……なんか用?」
  無言の圧力。うう、年上の余裕を見せるんでしょ。わかってますって。
「さっきは、」
「亘理君?早く来て頂戴」
  パーテーションの向こうからちょっと苛立った所長の声が響く。ビジネスには妥協のない人だ。怒らせると何かとマズイ。
「わかりましたわかりました」
  おれは慌てて応接室へと向かった。
「真凛さん、ちょっといいかしら?」
  その後ろで来音さんが真凛を呼んでいるのが目に入った。
 
 
 
 

 

◆◇◆ 3 ◇◆◇

 
 
「プルトン専属鑑定士の小栗弘一です」
 
  きちんとスーツを着込んだ品の良さそうなその男性はそう名乗った。
「プルトンの名刺ですか。割とこの業界長いですけど、仕事でこのマークを見たのは初めてですね」
  おれは特徴的なロゴマークの入った名刺をなんとなく弄んだ。ビジネス業界ではともかく、一般の、というより女性の世界では、このマークを知らない者はいないだろう。
  プルトン。高級バッグやトランクを中心とした数々の魅力的なブランド品を製作している超有名企業である。十九世紀フランスに誕生して後に世界中で高評価を得、その後二十一世紀の現在に到るまで、その秀逸なデザインは世界中の(主に)女性を魅了してやまない。
  ……と言ってはみても、所詮は男の視点で語れるのはこんなところまでだ。より詳細な情報が知りたければ、そこらの女性にこのブランドについて尋ねてくだされ。嬉々としてこの十数倍の情報を語り尽くしてくれるだろう。問題は何故かその後、プルトンのバッグをプレゼントせざるを得なくなることなのだが。ちなみに高級ブランドなので当然一個あたりウン万円からウン十万円は平気でシマス。
「彼女に貢ぐ時に買うバッグ、っていうイメージしかありませんねぇ」
  おれはひがみっぽく呟いた。いかんな。どうも今日は口調がマイナス方向に偏りがちだ。すると傍らの浅葱所長が、やれやれと肩を竦める。
「亘理君、プルトンのバッグやトランクはもともとビジネスマン向けに生み出されたものなのよ。一流の仕事をする男性にプルトンを愛用している人は本当に多いの」
  小栗さんも頷く。
「特に女性の方には、季節ごとに新しいものを買い足される方も多いのですが、使い込むという点については男性のお客様の方が多いですね。補修や打ちなおしといった要望をよく頂きます」
「安物は三年もてばいい。だけどプルトンのバッグなら三十年もつから、実は安物の十倍の値段を出しても買う価値があるってワケ」
  その話は聞いた事がある。おれの知り合いのとある銀行員も、私生活ではTシャツ一枚買うのにも値切るというケチンボだったが、仕事で使う背広やバッグには迷わず高級品を選んでいた。安物を買ってもすぐダメになって買いかえなければならない。それならば長持ちする高級品を買い、きっちり使い込んだほうが味も出る、という思考なわけだ。世間では見た目より中身、という言葉もある。だが、ことビジネスにおいては、まず見た目で相手を引き付けない限り、中身を見せる機会そのものが巡ってこないという事がよくある。背広やカバンで見た目が演出できるなら、充分”生きた”投資なのである。戦場で自分の命を預ける装備に安物を選ぶような人間は、死んでも文句は言えないのだ。
「ま、そもそも無理をしてもブランド品が買えないおれのような人間には、まだあまり意味が無いわけですが」
  ちなみにおれが愛用しているザックは某アウトドアメーカーの蔵出品である。これはこれで耐久性と防水性がケタハズレなのでおれは重宝している。
「ともあれ。高級ブランドの代名詞とも言える御社の御依頼となると、案件はやっぱり」
「――はい。近頃出回っている偽ブランドについてのお願いです」
  やっぱりそう来たか。
 
 
「我々プルトン社の歴史は、そのままコピー品との戦いの歴史でした」
  既に所長には説明し終えているだろうに、小栗さんはおれに丁寧に再説明してくれた。
「十八世紀に初代プルトンが、トランクの上に布地を貼るという画期的な製法を開発してから五年後、すでに各地でそれを模倣した安いコピー商品が発生していました。初代はそれを嫌って新しい布地の組み合わせを発明しましたが、それもすぐに模倣されることになりました。以後百五十年、我々は新製品の開発と、それに追随するコピー品の誕生というサイクルを繰り返してきました」
  度重なるコピー品の発生もあったが、結果としてプルトンは勝利を収めた。例え優れたデザインがすぐにコピーされてしまったとしても、確かな技術力と良質の素材までは埋め合わせる事が出来なかったからだ。
「――現在まで、我々の造るものの品質は、決してコピー品の類に追いつかれるようなものではありませんでした」
「おれもアジアの裏通りでその手のパチモノは随分見かけましたが。一目で偽物とわかるものばかりでしたねえ」
  中学生の頃からそんな所に入り浸っていた我が人生を振り返り、ちょっと自己嫌悪。
「しかしここ十数年、その品質そのものが追いつかれつつあるのです」
  俗に言うスーパーコピーである。本物に近い素材を使い、本物に近い製法で仕上げる。それらの多くは人件費の安い中国などの工場で作られており、またもちろんデザイン料も不要のため、本物と同程度の材料費を投入しても充分に安いものが供給出来るのだ。美術品の贋作同様、最近の偽造技術は極めて高い水準まで引き上げられてきており、クローンと呼ばれるものも出回るようになって来た。すでに税関の職員や、プロの仲買人にも見破る事が難しくなっている。大きな声では言えないが、誰にも気づかれないまま、精巧なスーパーコピーが某大手デパートの店頭で売られていたなんてこともあったらしい。
「この手のモノは一度当たればぼろ儲けなのよね」
「まあ、銃器、麻薬、偽ブランドは密輸品の御三家ですしね……」
  もちろんこんな手の込んだ大規模な偽造を、そう簡単に出来るわけが無い。そういった偽ブランドメーカーの後ろには、だいたい国際的な犯罪組織やマフィアがついており、彼等の資金源となっている。世間には偽物と知らずに買わされる人はともかく、中には偽物と知りつつ買ってしまう人もいる。だがそれは明らかな犯罪行為であり、またその金が暴力組織の利益になっているという事は、よくわきまえておくべきだろう。
「専属の鑑定士さん、という事はこの手の偽ブランドの判別がお仕事という事ですね」
  小栗さんは頷いた。この人はプルトン社に属し、各地に出回るプルトンのブランド品が本物か偽物かを鑑定する事が仕事なのだ。
「特に問屋さんから、自分の仕入れたものを判定して欲しいと言われる事が多いのですが……。今回は少し違います」
  そう言うと小栗さんは巨大なボストンバッグを開き、中から三つのバッグを取り出した。大小種類はあるが、いずれもプルトンのバッグ。この名刺と同じロゴマークが入っている。
「これ、もしかして偽物……には到底思えませんねぇ。まさしくクローンだなこれ」
  おれは以前にアパレル企業に関する任務についたときに、見分け方の初歩の初歩を教わった事がある。ロゴの印刷のズレ、皮の質(安物は手触りが悪い)、そして裏面の縫製(手間がかかるため、粗雑なコピーではここに手抜きが現れる)。素人なりにチェックしてみたが、まったくお手上げ状態である。すると小栗さんも一つ大きなため息をついた。
「ええ。鑑定士の私から見ても、本物に間違いありません」
  おれはがくりと肩を落とした。
「な、なんだ本物ですか。思わせぶりに出さないでくださいよ」
  話の流れからすれば偽物だろ普通。
「それがねえ亘理君。問題はそこなのよ」
「は?」
「これは、ネットオークションで六万円で競り落としたものです。こちらは五万八千円、これは七万四千円」
「んな馬鹿な!?」
  一時期とある女性に貢がされていたおれの経験から言えば、いずれも並行輸入の格安店で購入したとしても十五万円以上は固い代物である。……すまん、今の発言はスルーして貰えるとありがたい。
「どう考えてもパチモン価格じゃないですか」
「ええ。実はこのようなブランド品が最近、ネットオークションで大量に出回り始めているのです。格安で出展され、この程度の値段で落とせてしまう」
「……でも、本物なんですよね?中古品とか?」
「いえ。新品です。そしてこれは今年のモデルです。我々製造側が言うのもどうかとは思いますが、これを六万円で売りに出して利益が出るはずが無い」
  ……つまり、話を整理すると。
「ネット上のオークションで、本物が、大量に、赤字確定のはずの値段で出回っているということですか?」
「そういうことよ亘理君。これが誰かものすごく気前のいい大金持ちの気まぐれで無いとしたら」
「……誰かが非合法な手段で本物を手に入れ、安値で売り捌いている。あるいは」
  小栗さんがおれの言葉を引き取った。
「……私ですら本物と鑑定せざるをえないこれが、偽物かも知れないと言うことです。もしこれが偽物であれば、我々にとっては非常な脅威となります。御社にお願いしたいのは、一連のこの品物の出所を調査し、真贋を突きとめて頂きたいのです」
 
 
 
「どうしたものかなぁ」
  小栗さんは忙しい人らしく、すぐにまた会社へと戻ってしまった。おれはと言えば、とりあえず引き受けたものの、まず打つべき第一手が思いつかず、自分の席であてどもなくペンを回している次第。今、来音さんがネット上で該当するオークションのログを集めてくれているので、それを見て方針を決定したいところ。
「……また仕事?」
  気がつくと七瀬真凛がおれの後ろに立っていた。先ほどのような怒りのオーラはとりあえず也を潜めたようだ。……ていうか、その。餌をくれるのかいじめるのか判らないながらもこっちににじり寄ってくる犬のような表情はいかがなものか。まあ、おれとて分別のない大人ではない。泥を洗い落としてまっとうな思考を取り戻せば、譲歩する大人の余裕も無きにしもアラズ。
「あ、ああ。まーな。土日で二本っつーのも久しぶりなわけだが」
「ボクは……どーすればいいのかな」
  ……むぅ。こいつも来音さんに何か言われたクチか。怒りのオーラは抜けたらしいが、なんだかしゅんとしている。普段が普段なだけに、あんまり元気がないとこちらも調子が狂う。
「ああ。今回は地道な調査任務だし。お前は帰ってゆっくり休んでくれ」
  それはおれなりの謝意だったのだが。
「どうして……?」
  何故か真凛は視線を床に落としていた。
「そんなにボクは役立たずかな?喧嘩にならないから居ても意味が無いってこと!?」
「べ、別にそんな事は言ってねえよ」
「言ってるじゃないか!」
  ……あ、ムカ。
「ンだよ。さっきまで散々おれと組むのはイヤだとか言ってたくせに。希望どおり帰れって言ってやってるんだから帰れよ!」
  真凛がこっちに一歩詰め拠る。おれは飛び退って構えた。
「や、やる気かよ」
  だが、予想されていた打撃は飛んで来なかった。
「言われなくても帰るよ」
  とだけ呟くと、おれに背を向けた。
「何だよ、せっかく……」
  語尾はよく聞き取れなかった。机の上に置いてあった自分の荷物を掴むと、真凛はとっとと事務所を出ていった。
「何怒ってんだよ、あのバカ」
  ……んなつもりじゃあ、なかったんだがなあ。
 
 
「亘理さーん?」
  のんびりした声だが、おれはまるで雷に撃たれたように飛び跳ねる。プリントアウトした書類の束を手にした来音さんがそこにいた。
「な、なんでしょう、来音さん」
「今回の仕事に必要な情報はプリントアウトしてここにファイルしてあります。電子情報も順次社内のサーバーに集めておきますので、必要に応じて『アル話ルド君』でダウンロードしてください」
「りょ、了解です」
「まず捜査すべきポイントも目星をつけましたので、明朝九時にそちらに向かってください。あとは亘理さんのやり方でどうそ」
「……はい」
「それでですね〜」
  ……なんでこの人の声は間延びしている時の方が迫力があるのだろうか。
「真凛さんにはあ、ちゃんと謝れたんですかね〜?」
「い、いえまあその善処はしたのですが」
「うふふふふ」
  え、笑顔だけでおれの言葉を否定しないでくださいっ。
「真凛さんがね、さっき亘理さんが商談中の時、私に相談しに来たんですよお」
「……何をです?」
  おれの疑問に直接は答えず、来音さんは何故か、はあ、とため息をついた。
「所長からは通常どおり二人一組で仕事にあたるように指示が来ています。あの子には私から連絡しておきますから。今日は亘理さんも帰ってゆっくり休んでください〜」
「……わかりました」
  どのみちこれ以上ここにいても出来る事はなさそうだ。処置なし、とおれは口の中で呟いて、事務所を後にした。
 
 
 
 

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